いずれにしても、楽しみにしていた作品であっただけに、そこまで作品にのめり込めなかったのは残念に思えます。
バリー・アイスラー原作のハードボイルド小説『雨の牙』の映画化作品。
とはいえ、ほとんどがマックス・マニックス監督のオリジナルとして撮影された、とのこと。原作を読んでいる人にも、「どうせ同様の結末なんでしょ」と思わせないための工夫なんだと思うんですが、どうしても原作と見比べてしまうのは人の性。
やはり、東京という世界最大の都市で、昼夜問わず大勢の人が行き交う不夜城都市が舞台というのは、いささか無理があったようです。だって、殺す側・殺される側が誰であれ、監視する側、監視される側が誰であれ、必ず人目につくから。逆に、そんな状況下でどのような攻防が繰り広げられるのか、というのが見物かと思っていましたが、仮にもプロ集団であるはずのCIAがこんなお粗末な展開の連続じゃ、ゲイリー・オールドマンでなくても怒鳴り散らしてしまいますヨ。
加えて、原作は今の東京を具に観察し、東京の良さや悪さ、照らす光や潜む闇、酸いも甘いもほろ苦いも点在する『東京』を、時には冷淡に、時には芸術的に表現されていたのに。今作は、「『東京』を舞台にした」という感じがいまいち伝わってこない。
また、今作のあおりとして用いられたのが、『逃げる二人に、東京が牙をむく』でしたが、どちらかというと牙を向けられているのは、逃げる二人(ジョン・レインと川村みどり)じゃなくて、追う方に見受けられるのですが……。
フィルム・ノワールにしては官能的なシーンも全くなし。R指定が無いことでうすうす感づいてはいたんですが。
とまぁ、色々と感じたことを並べてみて、「本当にこんな作品を作りたかったのか?」と思ってしまうのです。いや、皆さんやはりプロですし、もっといい作品を、面白い作品を、という意気込みがあったのでしょう。あくまで想像ですけれど。
これまでも、『東京』を舞台にした作品はいくつかありましたが、撮影するのに時間がかかったり、特別な許可が必要だったり、すぐそこに魅力的な材料があるにもかかわらず、うまく入手できないことにヤキモキしている映画制作者サイドが多いと聞きます。
もう少し、東京とは映画作成に寛容になるべきではないかと。国内だけでなく、海外も含めて。折角、東京の魅力を作品に込めて発信しようとする人たちがいるのですから。何だか勿体無い気がします。
彼の身体に刻まれた時代の記憶は、永く閉ざされてしまった彼の頑なな心情を物語っていた。
戦争に借り出され、火薬と硝煙にまみれた戦場の中で、今でも鮮明に蘇る、人を殺した瞬間。彼の身体に刻まれたのは、今の子供達が夢中になるようなテレビゲームや、ストレス発散のサバイバルゲームのような『ごっこ』ではない。殺されたらそこで生命が終わり、殺したらその時点で自分の身体は永久に消えない血と罪で埋め尽くされる。それ以降の時代を身体に刻み込むことなど、彼にとってはまるで無意味と思えてしまうくらいに。
「時代は絶え間なく変わっていく。その時代に合わせて、自分も変えていくべきだ」
その考え方は間違ってはいない。だがお前らに何が分かる? 人を殺したことも無い、殺されるような切迫した状況に置かれたことも無い、無数の血と死体で埋め尽くされた大地の上でのうのうと生きているだけの、知ったふうに未来と理想を語るお前らに、一体俺の何が分かる?
彼の肉親でさえ、今では彼から最も遠い人間となってしまっている。
そんな時、彼は一人の少年に出会う。無口で、不器用で、変わりたい、脱皮したいという渇望をその目に僅かながらに宿らせながらも、その一歩を踏み出せないでいる少年。でもその少年は、「今を懸命に生きたい」という気骨がある。不器用ながらもその一歩一歩を確実に踏み出している少年。今の若者のように、生き急ぐかのように足早に歩くことでも、足を踏み外すことをまるで「かっこいい」と勘違いしているわけでもない。でもその臆病さは、間違えればその道に足を向けてしまいうかもしれない。
人と関わることを忌み嫌った、いや恐れた男は、恐らくこう思ったのかもしれない。彼のような人間は、今の時代にはそぐわないかもしれない。時代遅れと貶されてしまうかもしれない。でも、彼のような気骨は、今の時代に必要なのかもしれない。不器用だし、臆病だし、無垢で頼りないけれど、「アウトローで生きることはかっこいい」と思っている連中よりはいい。
だからこそ、彼は死なせたくないし、その手を血に染めさせたくない。彼の手は、彼の身体は、その後の時代を克明に刻むのに必要だから。もう俺の身体は、これからの時代を刻むには老い過ぎている。
主演のクリント・イーストウッド氏の口が、への字になり、銃を片手に身体から覇気を撒き散らそうとしている時、BGMには何やら勇ましい音楽が。その勇ましさをジョークっぽく表現しているのは如何にもクリント・イーストウッドっぽいと思ってしまう一方で、それを自分自身に当てているのは何かのネタか? と思ってしまいました。でも結局のところ、それはこの作品を彩る要素の一つに過ぎなかったのですが。
彼の作品を鑑賞するといつも思う。いたってシンプル。ドキドキワクワク感もほとんど無い。今を象徴するかのようなVFXも。彼とて、別に大ヒットすることを狙って作ったわけではないかもしれない。『クリント・イーストウッド』というネームバリューを駆使しているわけではないかもしれない。
それでも、何故彼の作品にこれまで心を強く打たれるのでしょう。多分、彼ほど人間の本質を深く抉り出した作品はないかと思います。大抵の人間は、抉り出された人間の爛れた本質を照らし出されると逃げ出してしまう。なのに、それでも人が見入ってしまうのは、彼の「爛れた人間の本質」の照らし方なのではないかと思うのです。冷酷に淡々としているだけでなく、それは人間誰しもが持っている、貴方だけではない、だから爛れた本質を持つのは恥ずかしいことじゃないと、暖かく光を当てるかのように。但し、それと真剣に向き合わなければ、人は変われない。主人公は、そのままずっと人との交わりを拒み続けながら孤独のままに死ぬし、少年は臆病でいつまでも一歩を踏み出せず惨めな大人になる。それを嘲笑うアウトローたちも、アウトローから抜け出せずに一生を終える。
こんなこと、彼の人生のまだ数分の一しか生きていない僕が言うのはおこがましいくらいです。だって、僕は彼と対峙できるような人生を送っているわけではないし(やはり現代の生ぬるい環境で生きる人間の一人に過ぎません)、やはり同じように爛れた部分があるけれど、それを隠さずに受け止めて、面と向き合って生きているとは言えないから。
そんな迷える人たちを、冷たくも暖かく見つめているグラン・トリノ。物言わぬ『彼』だけど、そんな『彼』もまた、彼らと同じように、過ぎ行く時代を刻み続けた、ボロボロだけど直向に生きる姿を象徴しているのかもしれません。
2009年の米アカデミー賞・外国語作品賞を受賞の『おくりびと』、2009年の大河ドラマ『天地人』の舞台の一つでもある山形。そんなホットな話題が沢山ある(何となくこう書くと2009年限定に見えてしまう……)山形に出掛けてみようと思い立ち、置賜さくら回廊に出掛けました。
しかし、『おくりびと』の舞台は、庄内平野が広がる酒田市。『天地人』の主な舞台は、上杉神社が鎮座する米沢市。置賜さくら回廊は、山形の桜の名所とはいえ、話題の2作品の主な舞台ではないところに、ビミョーな虚しさを感じているところでございますミーハー馬鹿めがこの野郎。
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気を取り直して。。。
宿泊の予定は無かったので、赤湯温泉がある烏帽子山の桜の鑑賞が主な目的だったのですが、予想外に時間があるため、山形鉄道フラワー長井線に乗って、白鷹町は蚕桑まで足を伸ばしてみました。正直、山形新幹線が2時間30分くらいで行けるとは思っていませんでしたから。
秋田新幹線と同じように、山形新幹線も福島から在来線を用いて運行される列車。なので福島から山形へ進む際の景色が、全っ然新幹線が走りそうなところじゃないのですよっ! トタン屋根で作られたようなトンネルを通る、文字通りのローカルな場所を走っているので、ある意味秋田新幹線よりも田舎方面を走っている、という感じがします。まぁ、これまで何度も新幹線に乗ってきた分、新鮮な旅を味わえたのは確かですが。
置賜さくら回廊で訪れたのは下記の通りです。
烏帽子山公園(烏帽子山八幡宮)~最上川堤防~釜の越桜~薬師桜~白兎の枝垂桜~
双松公園の慶海桜と眺陽桜
置賜さくら回廊を連ねる桜の名所は数多く点在するのですが、僕が見た限りでは、公園としての広さとそれを覆うかのような桜の樹が植えられているのは、烏帽子山公園くらいでしょうか。他の場所も、目をひきつけられるような見事な桜が咲いていますが、敷地はそんなに広くなく、植えられている桜も1本~数本程度。
まぁ、山形の桜は植えられた本数ではなく、その桜が植えられた経緯、現在の桜の形など、これまでその身に刻まれた歴史を物語っているところが、人を魅了しているのかもしれません。烏帽子山八幡宮の枝垂桜が有名だからか、そこかしこに枝垂桜が沢山咲いていました。これもまた、置賜さくら回廊の魅力の一つなのかもしれません。
『山形県』の写真集についてはこちら
圧倒的な軍勢を率いる曹操軍と、英知と策略に長けた周瑜と諸葛亮。赤壁の戦いを制することは、武力や人数だけでは成しえない。誰が誰を欺き、利用し、そして『赤壁』という地の特長を熟知しそれを活かすか。三国志の中で最も過酷と言われた戦いの火蓋が、切って落とされる!
その『過酷』な戦いという伝説の通り、赤壁の戦いは、もはや凄惨の一言。武侠映画にあるような、しなやかに身体と武器を駆使した、鋭くも美しいアクションがやはり少ないのは前作同様。しかし今作の最も恐ろしいところは、スクリーンに広がる全てを炎で焼き尽くすかのような火力。「今夜の火力はちょっと凄いぞ」なんてウィスキー片手にベタな口説き文句のようなものじゃない、一面が焦土と化すぐらいの炎。そして、夥しい数の骸。赤壁の地は、文字通り血と炎で紅蓮に染め上げられた、もはや誰の手もつけられない悪夢のような場所となってしまったのです。
そんな凄惨の極みとも言うべき周瑜の一言。
「勝者はいない」
たとえ目的を果たせたとしても、あまりにも多すぎる犠牲者の骸を目の前にすれば、そう口にせざるを得ないでしょう。
しかし、覚悟を持つ者は何も戦っているものだけにあらず。女達も、ただ待つだけではなく男達と同じように生命を賭けようとします。それが、もしかしたら自軍の不利になるかもしれない展開になるかもしれないと知ろうとも。
また、中国歴史を題材にしたスペクタクル作品でありながら、笑いを誘うようなネタもちらほら。それは、Part Iにもいくつかありましたが、Part IIでも勿論健在。むしろPart IIの方が面白いかもしれません。
今作も『三国志演義』を題材に作成された作品ですが、パンフレットを見ると、ところどころジョン・ウー監督独自の解釈を盛り込んだそうです。
例えば、赤壁の戦いの出陣前に冬至の団子を食べる、というシーンは、『三国志演義』にもその奇術は無いそうです。つまり、ジョン・ウー監督の完全オリジナル。でもそこには、たとえ誰かがそこにいなくても、離れ離れになっても、皆が『家族』として繋がっているということを、たとえ台詞が無くても暗に示している、ということ。そんな、友人や家族の深く立ち切れ難い絆の数々が、この作品に散りばめられています。
さすが、二部作として作成された作品だけに、後編となる今作は色々な意味で凄まじい。でも、だからこそ必見だと思います。
そんな調子では、今年も、来年も、そして再来年もこんな状態になってしまう! と考え、意を決して桜が咲き誇る京都へ足を運びました。
予てから「京都は絶対に1日で回れない」と言われ続け、生来の負けず嫌いが「そこまで言うならやってやろうじゃねぇか」と無駄に血を滾らせて足を運んだ日帰り京都旅行。それが瞬く間に無謀なものだと思ったのは午後3~4時を過ぎてから。
朝の9時前に京都駅に到着したにも関わらず、結局1日で回れたのは、京都の社寺・名所の5分の1にも満たせず。桜を愛でるための旅行なのに、何故敗北感を味わわなければならないのか、客観的に見れば全くもって理解不能ですが、それくらい観覧する場所が多く、そして広く点在していることしていること。「こんなに京都は広かったか!?」と改めて思い知らされたのは言うまでもなく。
結局、今回の日帰り旅行で訪れたのは、下記の通りです。
清水寺~祇園~円山公園~知恩院~高台寺~霊山観音~平安神宮~南禅寺~哲学の道
いくら桜の季節といえど、平日だからそんなに混んではいないだろうと思っていました。しかし、最大の盲点が2つ。一つはセカンドライフを楽しむ高齢の方々の観光ツアー。そしてもう一つは、平日の京都観光のマイノリティ、外国人観光。右からは英語・フランス語・ドイツ語・イタリア語、左からは中国語・韓国語・ベトナム語・インドネシア語、って感じ。以前広島や日光でも同じでしたが、多国籍にも程があるだろ! というくらいに日本人以外の方々で賑わっていました。
まぁ、今は日本への観光産業推進のために、「VISIT JAPAN CAMPAIGN」に力を入れているのもよく分かりますが。しかし、世界広しと言えど、ここまで多種多様な人種を限られた1箇所(ここでは総じて『京都』)に難なく受け入れられるのは、後にも先にも日本くらいかもしれません。
さて、桜や紅葉といった正に観光のシーズンの真っ只中である京都における、最も効率的且つ最高の乗り物として、僕は、『レンタサイクル』を是非お勧めします。
何と言っても1日借りて900円~1500円と安く、小回りも聞くし自在に行動できるし、歩道でも(手押しですが)利用できるので、徒歩、電車やバス、レンタカー・タクシーに比べたら、格段に自由で多彩な京都観光を楽しむことが出来ます。駐輪場が少ないというのが難点ですが、逆に車でも、人が込み合う観光シーズンはあっという間に車の駐車スペースも埋まってしまいますし。
既に決まった場所に行くのであれば、電車やバスでもいいかもしれません。ですが、電車は東京のように張り巡らされているわけではないので、自由度はかなり下がってしまいますし、バスは昼くらいから長蛇の列が出来るくらいの混雑振り。観光周りに疲れた身体には堪えてしまいます。
自由度や経済性、小回りの利く面からお勧めの乗り物ではありますが、市街地は意外と車どおりも多く、お店が並ぶため駐車している車も多数あります。事故にあわないようにお気をつけて。
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