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2024/11/22 07:22 |
[Review] インビクタス/負けざる者たち
インビクタス/負けざる者たちアパルトヘイト [Aprtheid]

アフリカーンス語で分離、隔離の意味を持つ言葉。特に南アフリカ共和国における白人と非白人(黒人、インド、パキスタン、マレーシアなどからのアジア系住民や、カラードとよばれる混血民)の諸関係を差別的に規定する人種隔離政策のことを指す。



27年。南アフリカ共和国の第9代大統領、ネルソン・マンデラ氏が投獄されていた年数。
アパルトヘイトによる『安全なる隔離』の下に差別を受けてきた非白人種の一人として、彼は武力という『力』を以て対抗しようとし、逮捕・収監された。普通の人間ならば、27年間も収監されていれば、釈放後は復讐に燃え、これまでの差別に対する報復とも捉えかねない振舞いをしたかもしれない。
しかし彼はそうはしなかった。非白人種に対して侮蔑や差別を奨励することも無く、白人種に対しても、ただ非白人種と同様の扱いをするだけで格別卑下するようなことはしなかった。

それは恐らく、彼が何よりもまして、『南アフリカ』という国を愛していたからかもしれない。
そして、良かれ悪しかれ、どんな歴史が刻まれたとしても、『南アフリカ』は、『南アフリカ』という国を愛する全ての人たち(人種も、肌の色も、宗教も、理念も関係なく)で築きあげなければならない、と思ったからかもしれない。
1993年、前大統領であるフレデリック・デクラーク氏と共に、アパルトヘイトを平和的に廃止したとしてノーベル平和賞を受賞。しかし、彼の本当の目的は、アパルトヘイトを廃止することだけではない。『南アフリカ』を、世界に誇れる国にすること。そのために、『南アフリカ』に住まう全ての人々が、一丸となれること。

その先駆となったのが、1995年のラグビーワールドカップ・南アフリカ大会。
南アフリカの代表チーム『スプリングボクス』は、当時低迷期だったのに加え、アパルトヘイト時代の象徴として解体寸前まで追いやられていた。しかし、マンデラ氏はチームの名前とユニフォームの色を、自らの説得によって存続させる。多分彼にとっては、チーム名とユニフォームを一新させることは、『南アフリカのチームの革新』ではなく、『白人種に対する報復』であると目に映ったのかもしれない。そんなことで、長年を経て深みに深めてしまった、白人種と非白人種との溝が埋まるわけがない、と思ったから。
しかし、彼が学生時代にラグビーをやっていたこともあり、世界に誇ることが出来、且つ『南アフリカ』という一枚岩を作るためには、『スプリングボクス』がワールドカップで優勝することは、どうしても必要だった。

アパルトヘイトが廃止されたとはいえ、難題だらけの南アフリカ情勢。
実力が低迷し、更にはファンまで遠のきつつある『スプリングボクス』。
『世界に誇れ』、且つ『一丸となる』という、突き付けられた課題。当時にすればそれは、限りなく可能性が0%に近い物事を達成させることに近いことだったのかもしれない。
しかし、マンデラ氏と、『スプリングボクス』のメンバー(とりわけ主将であるフランソワ・ビナール氏)は、それを可能にした。類稀なる努力と、『変わっていこう』という自身の意志の力によって。

『スプリングボクス』が、PR活動ながらも非白人種の子供たちにラグビーを教えているシーンで、子供たちが横一列に並び、ボールをパスしているところ。そして、南アフリカ大会で着実に勝ち上がり、皆が食い入るようにテレビ観戦、ラジオ中継を聴き、優勝が決定した瞬間に皆が一斉に喜びを分かち合う。
『武力』によるクーデターや報復処置では決して得ることの出来ない高揚感、達成感。これこそが正に、マンデラ氏が望んでいた瞬間。世界に名だたる『南アフリカ』を、一緒に作り上げることが出来た瞬間。

本作のリリースにおいて、マンデラ氏より、下記のような言葉が添えられていたそうだ。

スポーツには世界を変える力がある。人々にインスピレーションを与え、団結させる力があるのだ。ほかの何かには、まずできない方法で


この作品、単に人種差別や隔離政策によって、非白人種がどれだけ不利益で差別的な扱いを受けてきたか、ということを伝えるためでもなければ、人種差別はいけないことです、ということを訴えるものでもない。
それはもはや前提条件で、更にそれを越えた、人種・宗教・肌の色・習慣・文化など一切関係なく、『一丸となって誇れるものを持つ、もしくは目指す』という願いを込めた作品だと思う。
2010年のサッカーワールドカップ南アフリカ大会も、開催前の日本代表は散々な顛末だった。しかしそれがワールドカップ開催と同時に、一気に花開く。そして、それまで諦めモードだったサポーターを呼び戻し、一丸となった応援が日本各地で鳴り響く。結果は、『スプリングボクス』のような優勝ではないにせよ、『日本』が一丸となって誇れるものを持てた喜びは、同様のものだったのかもしれない。


最後に。
彼が収監中にもかかわらず、自分の『本当の信念』に目覚め、そして持ち続けることが出来、フランソワ・ビナール氏にも送った詩は、19世紀の詩人、ウィリアム・アーネスト・ヘンリー(William Ernest Henley)の作品である。



Invictus


Out of the night that covers me,
Black as the pit from pole to pole,
I thank whatever gods may be
For my unconquerable soul.


In the fell clutch of circumstance
I have not winced nor cried aloud.
Under the bludgeonings of chance
My head is bloody, but unbowed.


Beyond this place of wrath and tears
Looms but the Horror of the shade,
And yet the menace of the years
Finds and shall find me unafraid.


It matters not how strait the gate,
How charged with punishments the scroll,
I am the master of my fate:
I am the captain of my soul.

インビクタス(不屈)


私を覆う漆黒の夜
鉄格子にひそむ奈落の闇
どんな神であれ感謝する
我が負けざる魂に


無惨な状況においてさえ
私は ひるみも叫びもしなかった
運命に打ちのめされ
血を流そうと決して頭は垂れまい

激しい怒りと涙の彼方には
恐ろしい死だけが迫る
だが長きにわたる脅しを受けてなお
私は何ひとつ恐れはしない


門がいかに狭かろうと
いかなる罰に苦しめられようと
私が我が運命の支配者
我が魂の指揮官なのだ

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2010/11/07 14:21 | Comments(0) | TrackBack() | Review - Movie

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