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2024/03/29 21:37 |
[Review] トータル・フィアーズ

トータル・フィアーズ『恐怖』。

武器や大量破壊兵器や核兵器よりも更に恐ろしい『恐怖』。
それは、人間の心。傷つけられたときの痛み。報復への渇望。人を混沌の渦へと巻き込み、やがて堕ちていく。落とされていく。
今のような情報伝達の手法が乏しい時代は、少数の権力者が、自分の考えを、主張を伝えるために、それこそ躍起に行動した。でも、今は違う。情報の伝達は、人間が作り出したものなのに、人間が制御できないくらいの恐ろしい速さで伝わっていく。しかも、かつての時代のように、外側からまるで思想のシャワーを浴びるように伝わるのとは対照に、まるで病原菌に蝕まれるかのように、内側から徐々に徐々に浸透していく。
尚且つ、人間が制御できないのはそれだけに留まらない。情報の量。情報の開示方法。全てが、全てを掌握する人のあずかり知らぬところで侵食していく。だから、今の人は『気づかない』。まるで、誤った歴史を公然と教え伝えるかの如く。

それが、ある事件を機に、一気に爆発したらどうなるか。
それでも、制御できるのは、『人間』しかいない。人間が引き起こした惨劇を、神が代行して制御することはできない。『人間』が犯した罪は、『人間』が『人間』として償っていかなければならないのだ。


あるテロリストが世界情勢を掌中に治める画策を企て、アメリカに原爆を落とします。
中東戦争で不発に終わった核爆弾を再利用するなど、事前に周到に準備し、且つ、巧妙に情報操作し、原爆を落とした犯人は、ロシアだとアメリカに思わせます。
アメリカはまんまと騙され、ロシアに攻撃を企てる。
しかしそれでも、最後まで真実を見通そうとした青年が、最初は自分の運命に呪いながらもやがて決起し、テロリストの陰謀を阻止しようと、正確な情報を収集し、両国に伝えようと紛争します。

トム・クランシーの小説『THE SUM OF ALL FEARS』の実写映画は、前半・後半と、物語がくっきりと分かれます。
前半は、テロリストの『備え』や、冷戦終了後も如何にアメリカとロシアが互いの腹の中を探り合っているか、というにらみ合いの攻防戦を描いています。
この前半、腹の探り合いやら情報の探り合いやらなので、小説を読んだわけではありませんが、多分、全体の相当量のボリュームを占める部分なのでしょう。これから起こる『恐怖』を、影から、内側から徐々に引き立てる部分でもあるのでしょうから。
だから、どうにも薄く感じてしまいました。小説の重要な部分を多く端折りすぎたのでしょうか? ノードがやけに点在するだけで、ノード間のラインがいまいち、というか、ほとんど見えてこない。だから、単に事象の連続にしか見えず、観ているこちらとしても、退屈になってしまうところがありました。

が、後半は打って変わって緊迫の連続。
前半部分で備えた恐怖の鬱積が一気に爆発し、一発の原爆の点火が、やがて二大国を戦禍へと巻き込んでいく。真実は、決して掬いだされないまま……
尚且つ、人々は皆冷静さを失っている。そんな中で、真実の情報を見出しても、どうやって相手に伝える? どうやって相手に分かってもらえる?
『人間』が犯した罪は、『人間』が償っていかなければならない。でも、極限状態の中での『人間』は、犯した『罪』が『見えない』。だから、盲目のままに『恐怖』は増大する。

テロリストにとって、それが最も狙っていたところだ。
だから、世界大戦が終わって60年経過する今も尚、本当の意味で、戦争など終わってはいない。
『恐怖の螺旋』は、『人間』が『人間』の『罪』を見ない限り、堕ちるところまで堕ちていく。

貴方は、それが望みですか?
よく考えて欲しい。
この映画は、そういったメッセージを問いかけています。

小説『THE SUM OF ALL FEARS』がリリースされたのは、1991年。
その当時は、考えもしなかったのでしょう。ワールド・トレード・センターやペンタゴンに、航空機が突っ込むなどということに。マンハッタンが、壮絶な恐怖と死の渦に巻き込まれることに。
そして、終わりなき戦禍の炎が、今も尚、途絶えることなく世界各地を焼き尽くしていることに。

まだ、『何も終わっていない』ということに。


トム・クランシー氏は、何も戦争を無闇矢鱈に奨励するために小説を書いたわけではないのでしょう。むしろ、『終わらせたかった』はず。でも、結局のところ、彼にとって見れば、世界が『変わった』のは表層上のことだけ。本質は、『何も変わっていない』。

それでも彼は、声高に唱えることを止めないと思います。『変える』ことをできるのは、『終える』ことをできるのは、我々人間だけなのだ、と。

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2004/11/17 15:44 | Comments(0) | TrackBack() | Review - Movie

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