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2017/08/17 10:52 |
[Review] 英国王のスピーチ
英国王のスピーチジョージ6世(Albert Frederick Arthur George Windsor

幼少より言葉が遅く、厳格な父ジョージ5世より厳しく育てられる。また左利きでX脚だったことから、半ば乱暴ともいうべき矯正の毎日を強いられ、次第に彼の心に大きな傷が出来始める。抑圧的でストレスが鬱積する毎日が、彼を言語障害(吃音症)に至らしめるには、想像に難くない。
彼の望みは一つ。「『普通の人』と『同じように』話すことが出来ること
それだけが望みであるにも関わらず、それだけでは済まされない事態が彼を襲う。父である前王の崩御。その父を継ぐはずの兄・エドワード8世の王族からの離反(王冠を懸けた恋)。そして第二次世界大戦の突入。ナチス・ドイツやソ連など、屈強の独裁帝国や共産主義が世界を席巻する、波乱に満ちた世情の中で、国が、民衆が、己の生活の安寧とイギリス国民としての誇りを持つためには、どうしても、上に立つ者の、元首の、リーダーの声が必要になる。
『普通の人』と『同じように』話すことが出来ること。
もはやそれだけでは留まらない己の立場。そして逃げることも引き返すことも出来ないし、そして許されない。
一人では成す術も無く、狼狽え、嗚咽し、絶望に打ちひしがれるだろう。でも、そんな中でも彼はやり遂げた。まだまだたとだどしい部分があろうとも。彼はやり遂げることが出来た。

それは、彼を献身的なまでに支えた、ただ一人の妻と、身分を超えて肩を並べ、共に乗り越えるために伴走した言語聴覚士。どんな困難も、一人で乗り越えるのは容易ではない。たとえ前に進むことが出来たとしても、その喜びを分かち合える人は、いない。
でも、それが二人だったら。それも自分と共に歩く掛け替えのないパートナーだったら。たとえ時間がかかっても、すぐに結果には繋がらなくても、失敗ばかりが続いても、前に進むことが出来た喜びを共有できるということは、素晴らしいことではないだろうか。




本作の主人公は、王という身分と位を頂に据えながらも、本質は普通の人間と何ら変わらない。彼には『吃音』という病を抱いている。これは幼少の頃からの心の病からくる病気だが、大なり小なり、心の病、コンプレックスを持っていない人なんて、この世にいるだろうか。イギリス国王、イギリス王室を題材とし、事実に基づいた作品であるが、これはコンプレックスを抱く普通の人が、そのコンプレックスを乗り越えるための人間ドラマなのだ。

それも、独力でいかにもヒロイック性全開というような、アメリカン・ドリーム満載の要素はどこにもない。本作のポイントは、人は独りでは決して生きてはいけず、誰かを助けて、誰かの助けを借りて、苦楽を分かち合いながら共に歩むということ、己が乗り越えたい壁は、時には己の力だけではどうしようもなく、その苦しみを共有できる本当の『仲間』『パートナー』がいるからこそ感慨も一入だということ、だと思う。
そして何より、今作で伝えたいことは、共に歩み、共に苦楽を分かち合う相手に、出自や身分など関係ない、ということ。彼にとってより近いはずの側近ですら、王をまるで腫物のように近づこうとはしない。今作で彼の吃音を劇的に改善させたライオネル・ローグの登場前にも言語聴覚士はいたが、全て王に傅く臣下に過ぎず、真剣に彼の吃音に向き合おうとはしないようにも見受けられる。
『普通の人』と『同じように』話すことが出来ること。
だからこそ、ジョージ6世として王座に就いた直後、娘達がまずした応対が、王の御前として礼を尽くすという様子を目の当たりにすると、とてもやりきれない気持ちになったに違いない。

これは、彼だけが特別じゃない。これは誰もが持っていることだ。
だからこそ、彼と同じ視点で、同じ立ち位置で一緒に考えられるパートナーが必要なのではないか。


僕はこの作品を鑑賞して、我が身を振り返った。僕は幸いにも吃音ではないけれど、彼の吃音を自分の今抱えているコンプレックスや悩みに置き換えると、なるほど、彼の悩み・苦しみと似ている。勿論、時代背景や身分のこともあるし、実際の生活に反映している病やコンプレックスだから、彼の悩み・苦しみは、決して同じではない。でも、もの凄く共感できる。
王座を手に入れる以上に、彼にとってこの上ない幸せは、自分の悩みや苦しみを理解し、乗り越えるために同じ目線で共に歩く『伴侶』『パートナー』を得たことだ。そこは僕にとっても焦がれるくらいの渇望の対象でもある。

自分を変えるきっかけ。それは他でもない人との出会い。少しどころではない。もの凄く羨ましい。そして、改めてそんな自分の変化を求める心を示してくれた本作に出会えたことを、心から嬉しく思う。
第83回アカデミー賞において、作品賞、主演男優賞、監督賞、脚本賞を受賞しました。4部門同時受賞は、数だけでは『インセプション』に並びましたが、主要部門の賞を獲得したことで、その映画の評価が非常に高かったことがうかがえます(僕個人としては、『インセプション』に作品賞を受賞してほしかった、というのがありますが。両作品ともベクトル違いますけど。でもどちらも素晴らしい作品だと思います)。

アメリカの映画賞ということもあり、昔から何かと因縁浅からぬイギリスの作品であること、アメリカン・ドリーム大好きっこからすれば、ちょっと内気な人物の一緒に歩いて頑張りましょ的なところが、評価されないんじゃないかなぁ、と勝手に想像してしまいました。が、全て思い過ごしに終わったのは言うまでもなく。

それとも、やはりアメリカも、ステレオタイプのアメリカン・ドリーム系の作品には、もはや胸焼けするくらい、おなか一杯、って感じなんでしょうか? アメリカも、少し改善したとはいえ失業率10%に迫るくらいの経済不況に見舞われている今日この頃。アメリカン・ドリームを追うにもそれだけの体力も失いつつある。だからこそ、同じ目線で、手を取り合って、共に歩んでいく作品に共感が持てたのはないか、とも思います。

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2011/03/01 00:15 | Comments(0) | TrackBack(17) | Review - Movie

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