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2024/04/24 13:55 |
[Review] 明日への遺言
明日への遺言昨今の時事情報を取り扱う報道は、どうも出てくる人物が『他人事』のようにしか取り扱っているようにしか見えない。一番の被害者に対し、労わり、慰めるような言葉が口から発せられても、その目は、その表情は、とてもながら誠意の表れは見られない。「誰かが解決してくれる」「時が忘れさせてくれる」。たとえその責任を擦り付ける相手がいなくても、決して負いたくないと願うその虚ろな表情は、手に取るように明らかだ。
けれど、『他人事』というのは、そういった時事情報を毎日ニュースや新聞を扱っている報道者や、それを見ている僕達も、同じなのではないか。様々な事件に対し意見を述べるのは自由だ。けれどその意見の多くは、大抵が『他人事』。「責任は誰が負うべきか」に帰結する。その意見を述べた当の本人はというと、特に何かをするわけでもない。確かに、事件の当事者でない者がいきなり関与するのもおかしいし、出来る事なんて無いかもしれない。でも、もし出来る事があるのなら、それを行うべきだし、解決した後で、責任問題を問うことだって遅くは無い。

毎朝毎夕の通勤、勤務中、コンビニや本屋等の店の中。見渡す限り、ただ単に、『他人』として、『傍観者』として、『関係無い者』としてやり過ごしたい。何となく、そんな気がするのだ。


今作『明日への遺言』は、戦後の戦犯裁判を題材として取り上げている。これまでの戦場における悲惨な光景はほとんど無く、終始、裁判所内での撮影となっている。過去にも、『生きること、死ぬことの覚悟』や『家族への愛』、『最善を尽くし、己の信じる道を進む』といったことがテーマに各作品が制作されていった。この作品では、『責任』、そして『自分の正義を貫く』という現代の世相に対しそのまま問いかけているテーマを取り上げている。
第二次世界大戦。20世紀、世界中で最も多くの人命が奪われた惨たらしい戦争。敵国粛清のために仕掛けられた多数の爆弾。本来、軍事施設に対する爆撃のみ適法だったにも関わらず、一般市民をも巻き込んだ無差別爆撃は、後を絶つことは無かった。無差別爆撃を仕掛けた米軍搭乗員38名を捕らえ、正式な審理を問わずに処刑した、元東海軍司令官である岡田資中将をはじめとする20名が、戦犯として裁判にかけられていた。

戦争は、勝とうと負けようと、人殺しであることに変わりは無い。実行した者であっても、命令した者であっても。
けれど歴史は常に勝者のもの。勝った方が正義と見做される。歴史を塗り替える権利が与えられる。これまでもそうしてきた。きっとこれからもそうなのだろう。そして、敗者にその責の重圧が潰れてしまうくらいに圧し掛かる。
だからこそ、岡田中将はその理不尽が許せなかった。確かに自分も人殺し。その責は負わねばならない。良い事をしたとは思っていない。しかし、それは戦犯を犯した者に対する処罰である。本来殺すべきでない一般市民を大量に殺した者に対する処罰である。それに対する被告への処罰が、あまりにも理不尽なのだ。まるで、「負けたから当然」と、『他人事』のように吐き捨てるように。

裁判は、誰もが助かりたいばかりに、誰かに責任を擦り付け合う。勿論、法廷という厳粛な世界なのだから、『嘘』ではないのだろうけれど、観ている側とすれば、何とも見苦しい。
しかし、岡田中将は、「自分が助かりたい」という考えは、ほとんど持っていなかった。自分は命令をしただけ。実行したのは部下達と、自分を擁護する弁論が出来たにも関わらず。処刑の責任をその身一身に受け止めようとした。もしかしたら岡田中将自身でさえ、「生き残りたい」と願っていたのかもしれない。それにも関わらず。
更に、検察官や裁判官からも、減刑が出来ると捉えられる発言が来る。岡田中将の真摯で毅然とした姿勢に心を打たれたからなのかもしれない。しかし、岡田中将はそれを突っ撥ねた。それは真実ではない。真実でないから、法廷で告げるべきことではない。また、そんな甘い囁きに乗るのは、自分の正義に悖る。そう考えたのだろう。


今の世の中、こんなことが出来る人は、一体どれくらいいるのだろう。少なくとも、報道で見る政治家や不祥事を起こした人達、そして、顔や名前、素性が分からないことをいいことにネット上等で嘲笑う人達は、皆無に近い。
そして僕自身も、こんな極限状態の中で、これだけの責任感を奮い立たせることが出来るかどうかといったら、恐らく答えは「いいえ」と答えると思う。それだけの年数や経験を重ねていないことも勿論、それだけの覚悟が培われる土壌に生活していないことも事実。しかし、これから先も、こんななあなあで不安定、不明瞭だらけの世界が続くのだとしたら、岡田中将のような、決して逃げることなく、理不尽に対しあくまで戦い抜き、己の正義を貫き、そして果たすべき責任を果たす、という精神は、どこへ行ってしまうのだろう。

この作品が作成されたのは、これから先の世界をどう作り上げていくことに、誰しもが『責任』を負っている、ということを示すためのものだと思う。世界各地で起こっている紛争だけではない、地球環境破壊だって同じことだ。今、自分は何に対し、どれだけのことが出来、そしてどれだけの責任が果たせるか。そんなことを考えさせられる作品であると思う。

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2008/03/01 12:33 | Comments(0) | TrackBack() | Review - Movie

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