忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/12/22 15:07 |
[Review] ブラック・スワン
ブラック・スワン白鳥の湖。チャイコフスキー作曲によるバレエ作品。
1877年のボリショイ・バレエ団による公演以降、多数の演出家・振付師によって様々な版が出され、今やクラシック・バレエの代表作ともいえるに至りました。
僕はバレエにはとんと疎い人間ですので、『白鳥の湖』と言われて思い浮かべるとしたら、『情景』をBGMに、一指乱れぬ動きで主役を引き立てる群舞(コール・ド・バレエ)や、4羽の白鳥たちの踊り(パ・ド・カトル)が真っ先に。しかし、群舞やパ・ド・カトルは、あくまで脇役・引き立て役であり、物語の主役は、やはり白鳥オデット。女性バレエ・ダンサーにとって、主役を演じたいと思う気持ちは、やはり並大抵のものではないのでしょう。
ただ、僕はこの作品で初めて知ったのですが、通常、オデットと、魔王ロッドバルトの仕組んだ罠によってジークフリート王子を奪わんとする黒鳥オディール。清楚で儚げ、奥ゆかしいオデットとは異なり、官能的で妖艶、王子を略奪しようとオデットに成り済ますオディール。この2役を、一人の人間が表現しなければならないのですから、並大抵の表現力や演技力では太刀打ちできないのでしょう。

特に、ストイックに頑張り、一途に、純真無垢に、直向きにバレエに打ち込んできた人物であれば尚更のこと。


この作品は、スポーツ作品でよくありそうな、血の滲むような努力を重ねて主役の座をつかむスポ魂作品ではなく、努力を重ねれば重ねるほど自分が堕ちていく、という錯覚に見舞われる作品です。

ストイックで一途、それが故に、あまり自己主張したがらない。そんな彼女にとって、妖艶で淫靡な表現力を主だった形式として踊る、ということは、彼女のこれまでのキャリアを180度ひっくり返されたようなもの。たとえ、それが長年夢見てきた主役の座であったとしても。
踊りのテクニックは完璧に近いのに、テクニックだけではどうしようもない表現力。ストイックで一途な性格は、それが故に、歪な形での完璧主義者として顕れます。どうやったら、妖艶で淫靡な表現力を身に着けることが出来るのか。悩みは積もりゆき、追い打ちをかけるかのような、演出家の要求、ライバルの出現、これまで応援をもらっていた母親からの、執拗かつ過剰なまでの保護。
被責妄想に駆られるかのように、彼女の精神は極限まで追い詰められ、目に映るのが現実なのか、それとも虚構なのか、その区別もつかなくなってしまいます。刻一刻と迫る舞台初日。焦れば焦るほど堕ちていく彼女の心は、それまでの純粋無垢な『白』から、邪悪で破壊的な『黒』へと、塗りつぶされていくのです。


この作品を鑑賞は、その多くにおいて、主人公のニナを演じるナタリー・ポートマンの後ろ頭が映っています。それを追うかのようなカメラワーク。つまりこの作品は、出来る限り、主人公ニナの視点で描かれているのだと思います。観客にも、出来る限り、ニナの心情の変化や極限までの精神披露、ニナが見たもの触れたのもを理解してもらうように、だと思われます。
それは、ダンスシーンにも多くとられています。俯瞰的にダンスシーンを撮影するのではなく、あくまで主人公をはじめとするダンサーの動きに合わせてカメラが動いている、ダンスを間近で見る、というより、鑑賞者自身がダンサーとなっている、という見せ方なのでしょうか。当然、ダンスの最中のニナの呼吸音も聞こえます。が、その呼吸音も、単にダンスの呼吸ではなく、徐々に焦りの呼吸に変わっていくのが窺えます。これも、ニナの心理変化をとらえる一つの要素になっているのではないか、と。
間近でダンサーのダンスを見るという表現は、臨場感があると思いますが、動きながらの撮影であるため、鑑賞者によっては酔ってしまうのではないかと思います。
また、ニナとリリーがクラブでダンスをするシーンも、光の点滅が続くため、これも鑑賞者によって酔う可能性がありますので注意が必要です。

それにしても、すごい作品だな、というのが観終った時の感想です。
あれだけ臆病で、儚げであまりにも自信がなさそうだったナタリー・ポートマンが、荒々しく、狂気に満ちた表情に変貌させるのですから。また、その変貌の落差は、通常の演技のトレーニングでも難しいのに、加えてバレエの練習も入るのですから。
予てより、ナタリー・ポートマンの超人ぶりは、Wikipediaに掲載されている情報から伺っていますが、正にこの作品は、その片鱗をありのままに出している、と言えるのでしょう。米アカデミー賞主演女優賞獲得もうなずけます。


この作品で、清純さや純情さは求めてはいけません。かなり刺激的で、背筋が凍りつくようなスリラーです。でも、個人的にはこういう作品、本当に大好きです。

拍手

PR

2011/05/12 22:23 | Comments(0) | TrackBack() | Review - Movie

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<[Review] パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉 | HOME | [Review] 岳 -ガク->>
忍者ブログ[PR]