『指輪物語』や『ナルニア国物語』のような、完全なる異世界の物語ではなく、『ブラザーズ・グリム』のような、現実社会と御伽の国の境目のような感覚を思わせる作品です。
但し、童話の色々な要素を、これでもか! という具合に出していくのではなく、普通の生活の中で、ある日突然、現実社会と御伽の国の境界線がぼかされていくような、歪んでいくような。現実社会で、見ることの出来る、聴くことの出来る、触れることの出来る現象でありながらも、どこか『現実的』ではない『何か』がそこにある。
醒めてみると、「あれは夢だったのか……?」と自問したくなるような、そんな魔力が、この映画には込められています。
ラストはびみょーにそうではありませんでしたが。
違う意味で醒めてしまいましたよ。
この映画の監督が『サイン』の監督だったので、当初は観るべきかそうでないべきか、少し迷ったところがありました。『サイン』の、農場に出来上がるミステリーサークルの謎を追いつ追われつの、こちらも現実でありながらどことなく異空間の空気が漂ってくるような、そんな雰囲気を醸し出していましたが、
ラストシーンに一気に萎え果ててしまいまして。
そして、この映画もラストシーンの一部分も、イマイチ納得のいかなかったのですが、『サイン』程では無かったのは確か。でも、それまでどことなく異世界の空気が漂うような、中空に浮くような感覚だったのに、突如クッキリと異世界の『異物』が混入した、というのは、今までの世界をある意味思いっきりぶち壊すことになるのでは。
他に方法は? と言われても、パッと思いつくものはありませんが、少なくとも、最後まで現実世界と御伽の国の境目の靄を彷徨い歩いて、物語が終わった頃、スーッと靄が晴れ、現実世界に戻っていくような、そんな感覚でいいのでは、と思うのです。素人目の意見ですが。
しかし。
この物語の舞台であるアパートの住民は、でたらめとも言えるような話をよく信じたものだと、ある意味感心してしまいました。
でも、てんでバラバラな住民達も、統率する何らかのきっかけが必要だったのかもしれません。その水の精は、自身が特に何かをするわけではないけれど、その『出会い』こそが、彼らを変えるきっかけになったんでしょう。