若干、謎解きに直球ストレートすぎるところもありますが、それを補っても余りある物語の進行具合と、題材の斬新さ、緊迫したシーンの連続。主人公はおろか、登場人物全員が裏をかかれ、観客も裏をかかれる。よく『だまし討ち』に見られるような若干品性が欠けている「裏をかく」ことではなく、それこそ、推理小説に登場人物が作者の意に反するように、意思を持って自らの意思で行動するかのような、そんな感覚を覚えます。
未来の犯罪を予知する能力『プリコグ』。
もうそれだけで、これから行われる犯罪のほとんどが未遂に終わってしまう。誰が誰を殺すかなんて眼に見えてしまい、普通は、それだけでも『推理』とか『サスペンス』の題材に使えなさそうな気がするのですが。
加えて、近未来の最新鋭テクノロジーと言えば、決まって何らかの欠陥が生じる。登場人物は、その欠陥を探り、完璧なシステムに仕上げるか、欠陥を隠蔽し、世間を騙し続けるかのいずれかの行動を取っていきます。それにどう、主人公をはじめとするレジスタンス集団が立ち向かっていくか。
でも、スティーブン・スピルバーグはそこに留まることは無かった。この、『サスペンス映画』にはなりそうもない『予知』という題材と、『最新鋭システムに潜在する欠陥』と織り交ぜることで、『サスペンス映画』を作ってしまうのだからすごい。
『最新鋭システムに潜在する欠陥』を巧みに利用し、あたかも自分は殺人を犯していないように見せかける。偽りの情報にすりかえられても、『プリコグ』が視た予知はたがえることは無いと信じ、捜査に乗り出す。偽りの情報。勿論、偽りの逮捕劇。真実は偽りの『予知』の中に葬られる。
だが、その『偽り』が破られたら ?
『プリコグ』は、3人の力が合わさって一つの『予知』を視る。そのうちの1つが、わずかに『違う予知』であったら? その『予知』が、『偽り』を破る手がかりになったとしたら?
色んな情報が錯綜する中で、複線があちこちに散らばり、途中、情報の整理に追いつかなくなるものの、ラストで、それらの複線が一つに集約される様は、正にサスペンススリラーの極上の展開といっていいと思います。
推理が得意な人でも苦手な人でも、十分楽しめる映画ではないのでしょうか。
若干、ダークなブルーを基調にした、まるで薄暗い部屋の水の中を漂っているような、ある意味サイコスリラーなところがあります。その雰囲気が苦手な人はいるかもしれません。
最後に。
テクノロジーが進むにつれて、どんどん犯罪検挙の方法や効率も高くなりつつあると思います。もちろん、犯罪を犯す方も、そのテクノロジーの恩恵を受けてより巧妙になっていくのも否めませんが……
それでも、完全な社会形成はありえない、完全に未来を知りえる事はありえない。
『人間』であるからこそ、不完全をより完全に仕立てていくために、日々その目を前に向けていかなければならない。
窮屈な監視社会は、正にそれの警鐘なのではないか、とも考えられます。
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