作り話とか空想とか真実とかが、いっぺんに『一つの物語』という波に寄せられるような感覚の映画ですので、初見の人が観れば、よく分からない映画なのかもしれません。
が、映画の内容がよく分からずとも、シーンによって強調されるそれぞれの色彩の美しさ、中国の数々の名所の静寂の中から生まれる美しさ、壮大さ以上に眼を惹いて止まない、スペクタクルの美しさだけでも、必見の価値があると思います。
また、初見の人が観ると難しいのは先ほど申し上げたとおりですが、繰り返し観て、物語の内容を少しずつでも理解することによって、この映画の奥の深さを身にしみて感じることが出来ます。
それぞれにはそれぞれの理想があり、信念があり。その理想や信念のために戦ってきた。けれどもその信念は、必ずしも誰かと共有できるとは限らない。時として相見え、衝突することもある。でも、その中でないと、今までと違った新たな価値を見出すことが出来ないこともある。
暗殺者である残剣が、秦の国王と剣を交えて、本当に自分の中で誇りとして抱ける理想や信念は何なのか。それを誰かに伝えるためには、どうすればいいのか。
様々な苦悩がありながらも、彼はそれぞれ違う形で、自分の理想と信念を誰かに伝えようとする。
無名には書で。秦の国王には無名を通して伝えることで。如月には主従関係で。そして、最愛の飛雪には、己の剣を交えることで。
この物語は、ジェット・リー演じる無名が主人公のように思えます。が、彼はどちらかというと、この物語の語り部。本当の主人公は、トニー・レオン演じる残剣なのかもしれません。
更に、彼の伝えたかった信念や理想は、今現在生きる私たちにも、繋がるものがあります。
己の報復心だけで、先の全てを、周囲の関係や環境の全てを棒に振っていいのか。
勿論、そのような考えに導くことは、そう容易いことではありません。目の前で理不尽に大切な人を殺されたら、たとえ聖人であっても、復讐の炎を燃やすでしょう。
戦国の乱の中という、極限の状態の中で、それを見出すのは、並大抵の精神力の持ち主ではできるはずもありません。というか、人間にそこまでの悟りが出来るのかどうか不思議でなりませんが(笑)。
難しいですね。僕のような凡人では、きっと死ぬまで答えなんて出せないのかも。
でも、それでいいのかも知れません。人間としえ生まれてきた限り、未来永劫、理想と信念を追い求めようとして、苦しみ続けるのは宿命なのかもしれませんから。
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