ティム・バートンが演出する『不思議の国のアリス』の世界だから、どれくらいギトギトのグロテスクな世界が繰り広げられるんだろうと、ワクワクしながら観に行きましたが、
ちょっとパンチ力が足りないように思いました。
やはりこの不景気の荒波の真っただ中。多少なりとも商業主義的な要素を取り入れざるを得なかったのでしょうか。いや、だからこそ、これまでのティム・バートンらしい、あまりにもコアすぎる演出を取り入れた方が、かえって良かったのかも、と思ってしまうのです。
だって。
ティム・バートン作品のファンのマジョリティって、大体のところ、過激なくらいのグロテスク・パンキッシュ大好き人間じゃなんでしょうか? (偏見・差別意見を敢えて覚悟で言ってしまいました)
それはさておき。
ルイス・キャロルの児童文学『不思議の国のアリス』の主人公であるアリスは、大体10歳くらいの、想像力豊かな女の子。自分の空想の世界を広げ、そこで色々な不思議な体験をする。まさに、『永遠の少女』のシンボル的存在。
でも、この作品に登場するアリスは、そろそろ嫁ぐことや将来のことを考えなければならない19歳。空想の世界だけに生きることはできなくなり、否応無く、辛辣で厳しい現実の世界を目の当たりにする。かつて、自分がワンダーランドで不思議な体験をしたことなど、忘却の彼方にしてしまうほどに。
そんな、子供と大人の境目にいる彼女が、再びワンダーランドにやってくる。
ワンダーランドで彼女を待っていたのは、これまでその世界を築き上げてきた、不思議で変な登場人物たち(一部人じゃないのもいます)。
そこで彼女が学んだこと。このワンダーランドは面白い。でも、ずっと居られるわけじゃない。いつか、別れを告げなければならない。それは、自分が大人になればなるほど、現実を直視すればするほどに。
ワンダーランドの住人は、たとえこれから先、何年・何十年経っても、決して変わることなく、その世界に訪れた者を、呆れるくらい面白いやり方で迎え入れてくれるだろう。でも、その世界だって、決して綺麗事だけで全てが成り立っているわけじゃない。そう考えられるようになったのは、それだけ、自分が大人になったから。
『不思議の国のアリス』は、これまでにも幾度と映画化されてきましたが、この作品は、これまでとは似ても似つかない、全くのオリジナルと言ってもいいくらいの、風変りな作品です。