忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/03/29 14:54 |
[Review] ハンニバル・ライジング
ハンニバル・ライジング人が人を殺す。そんなことを仕出かせば、大抵の人間は動揺を隠せません。勿論、殺人を積み重ねていけば、それが『日常』になり、動揺も次第に無くなっていきます。『殺人』という『異常行動』が、『日常』になっていけばいくほど。
だが。彼は違った。彼は最初の殺人から、動揺を一切見せなかった。自分が刈り取った他人の生命は、彼にとってはただのモノ。いや、彼の欲求を満たすための芸術品。のちに引き起こされる数々の忌まわしい殺人事件は、そんな彼の常軌を逸した欲求から生まれ出ます。
人を死に追いやるたびに、人の死に顔を愛でるたびに見せる、恍惚にも似た笑み。その原動力は、幼い頃に植えつけられた、筆舌しがたい恐怖体験。

この作品は、ハンニバル・レクターの中に眠る狂気の序曲。『死』に『美』を求める、究極とも呼べる悪夢の始まり。



もしこれが、『羊たちの沈黙』や『ハンニバル』とは別の物語として位置づけている、単体の作品あれば、それはそれで面白いと思います。
主人公であるハンニバル・レクターの青年期を演じた、ギャスパー・ウリエル。人を死に追いやる直前に見せる、頬まで引き裂かれているような悪魔を彷彿させる笑み。これから先々で繰り返される悪夢のような所業を行う者としての表情としては、観ているこちらとしても身震いしてしまうほど。ただ、どれだけ彼が『ハンニバル・レクター』としてのキャラクターに扮そうとしても、この作品の『ハンニバル・レクター』の数々の所業は、その後の彼の行動を描いている『レッド・ドラゴン』『羊たちの沈黙』『ハンニバル』に繋がるような気配がありません。

最愛の妹を虐殺され、さらにその虐殺が、自身にも決して逃れることの出来ない、そして筆舌しがたい恥辱を強いられてしまう。
その時、彼が後の『ハンニバル・レクター』としての魔性に目覚めたのか、それとも、最愛の妹を虐殺した者達を次々と殺していく最中に、魔性に目覚めたのか。その点が曖昧な気がします。
例えば、『007/カジノ・ロワイヤル』では、愛した女の突如とした裏切りで、人に対する信頼の一切を絶ち、いままでやんちゃ坊主のようだった『ジェームズ・ボンド』が、冷酷なまでの暗殺者になった。単純に見えながらも、その変容振りには目を見張るものがありました。しかし、『ハンニバル・ライジング』における彼の殺人は、全て復讐心からなるものばかり。とても、後のアンソニー・ホプキンスが魅せる『ハンニバル・レクター』からは遠いと思うのです。


けれど、一旦離れて考えてみると、こうも思ったりします。
最愛の妹の虐殺以上に、虐殺を契機に犯人達がハンニバルに向けられた最も残酷極まりない行いが、彼の中の狂気を目覚めさせた。
彼にとって犯人達を殺すことは、ただの復讐にすぎなかった。でも、一人、また一人と殺し、妹を手にかけた彼等の血を、肉塊を見て行く内に、自分の中の狂気が徐々に目覚めていく。最初はそれを否定した。だってもしそれを受け入れてしまえば、自身もまた彼等と『同じ』になってしまうから。
でも、人殺しを繰り返せば繰り返すほど、その『本性』は次第に顕在化していく。最初は、復讐に見せるただの一面―『二重人格』のようなもの―であったものが、次第にその『本性』が『彼自身』と同一化していく。「これはただの復讐」「やつらとは違う」と呪詛のように自分自身に対して唱えながらも、もう自分で自分を止めることができない。制することができない。
そしてついに、封印したかった記憶を、犯人達に無理矢理引きずり出され、否応なく自分の『行い』を自覚させられたことで、彼と彼の『本性』が一体化する。それこそが、殺人鬼『ハンニバル・レクター』の誕生の瞬間。狂気と悪夢の始まり。

まぁこれは、単に僕の想像に過ぎませんが、その潜在的な『本性』が徐々に顕在化していくような描写があれば、「ただの復讐?」「本性の目覚め?」の曖昧なラインも、一つの物語の要素として楽しめたかもしれません。
でも、後々のハンニバル・レクターシリーズを念頭に入れなくても、『ハンニバル・ライジング』を単体の作品として、鑑賞することは出来ると思います。勿論、『それなり』の映像は出てきますので、ご覧になる方は、相応の覚悟が必要です

拍手

PR

2007/04/22 00:11 | Comments(1) | TrackBack() | Review - Movie

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

はじめまして。
「ハンニバルライジング」で検索してたら、ここのブログを見つけました。
みなさんがどんな感想をお持ちなのか興味がありましたので、
読ませていただきました。
みなさん一様に、不思議な日本描写には、
やや戸惑い気味ですね(笑)
続編があるのなら、
どんな風になっていくのか、不安・・・いえいえ、楽しみです^^

突然のコメント、ごめんなさい。
またお邪魔させてもらいます。
posted by kuwaURLat 2007/04/26 16:27 [ コメントを修正する ]
Re:無題
はじめまして。ようこそお越しくださいました。

まぁ、最近は生粋の日本人が制作や監督に携わっていても、日本描写にどことなく手抜きみたいなものが見受けると思うんです。
逆に、西洋の方々は、確かに日本人ではありませんから、描写そのものは不完全だし、「これはおかしいダロ」と思うものもあります(『SAYURI』とかそうですね)。でも、日本文化にインスピレーションを働かせて、彼等なりに肉付けしていこうという姿勢は、日本人として嬉しかったりします。

続編は、日本を舞台にするらしいのですが、楽しみですね。

>はじめまして。
>「ハンニバルライジング」で検索してたら、ここのブログを見つけました。
>みなさんがどんな感想をお持ちなのか興味がありましたので、
>読ませていただきました。
>みなさん一様に、不思議な日本描写には、
>やや戸惑い気味ですね(笑)
>続編があるのなら、
>どんな風になっていくのか、不安・・・いえいえ、楽しみです^^
>
>突然のコメント、ごめんなさい。
>またお邪魔させてもらいます。
2007/05/03 08:34

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<[Review] バベル | HOME | [東京] 色彩の絨毯>>
忍者ブログ[PR]